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追悼 葦毛の怪物

 その低い姿勢から、ヤツはグイッとまた一段ギアを上げる。普段のぼんやりしたツラとは違う、目を吊り上げ鼻腔を全開にした形相で。
 並んだら負けない。胸に毛筆で「根性」と大書きされている、と評した競馬ライターがいた。小説でもそこまでうまい話は書けないであろうという現役最後の有馬記念ばかりが語られるが、迫力一杯で走るヤツの姿こそ、あの馬のすべてといえた。

 オグリキャップが死んだ。

 種牡馬家業を引退し、悠々自適の隠居の身だったのに、放牧中に骨折しやがった。

 若い馬でも骨折からの復帰は難しい。極限まで走ることに特化したサラブレットの身体は、脚が4本なければ自身を支えることすらできやしない。
 過去に何頭もの名馬が骨折手術に挑んだが、たいていは悲惨な姿で死を迎える運命しか待ってはいなかった。
 ましてや御年25歳の高齢馬では。管理者が選べるのは、安楽死処分しかなかったのであろう。つまりヤツは天寿をまっとうできなかったのだ。

 父ダンシングキャップ。母ホワイトナルビー。血統的にパッとしない。ダンシングキャップの子供の中で、突然変異といえるのがオグリキャップ。
 父父ネイティヴダンサーの隔世遺伝ではないかという声もあったが、母系からはキョウエイマーチなどの活躍馬も出ていることから、母系の影響かもしれない。だとしてもパッとしない血統であることには違いはなく。

 冴えない出自。地方競馬である笠松競馬場出身。クラシック登録がなく三冠レースに出られず。脱税容疑で資格を剥奪される馬主。
 負の要素はかつての人気馬であるハイセイコーの比ではない。ハイセイコーは、いいとこのボンボンが地方競馬にちょっと所属してみただけ、という匂いが漂う、言わば作られたヒーローではないか。
 貧乏長屋の星飛雄馬。ドヤ街のガキらと泪橋から夕日を眺めていた矢吹丈。梶原一騎がオグリキャップという馬の原作者ではないかとすら思いたくなる。

 オグリキャップが死んだ。

 とうとう子供の中から重賞勝ちの馬は出なかった。オグリキャップの子として騒がれたオグリワンも、重賞で活躍できないまま地方競馬へ落ちていった。
 半妹のオグリローマンが桜花賞を勝ったことだけが、オグリキャップの周囲で明るい話題であった。

 突然変異。葦毛の怪物。バンブーメモリーをハナ差で下した強烈な追い込みが記憶に残るマイルチャンピオンシップ。ホーリックスと壮絶な叩き合いの末、世界レコード同タイム2着に敗れたジャパンカップ。
 胸に「根性」と毛筆で大書きしている馬、オグリキャップ。その激しいレースと、本調子に戻らない不遇の日々があったからこそ、最後の有馬記念での勝利が感動を巻き起こした。
 あの有馬記念がオグリキャップそのものではない。オグリキャップという馬のドラマのワンシーンでしかないのである。

 オグリキャップが死んだ。生き様そのものがドラマだった馬が死んだ。私の青春の日々に、競走馬のものすごさを植えつけてくれた馬。ヤツの死に、私は静かに酒を傾けるしかできない。

 今夜はヤツのために飲む。そして冥福を祈る。さらば、オグリキャップ・・・・。

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日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

残念です.
私はオグリといえばホーリックスに負けたJCをよく憶えてます.「ホーリックスって誰.なんでオグリ負けんの?」みたいな感想でしたね.しかし骨折とは本当に残念ですね.

投稿: すが | 2010年7月 4日 (日) 22:19

かつてGIレースにおいて芦毛対決で3度に及ぶ死闘を演じ、2003年に没したライバル・タマモクロスと、久々の再会を喜んでいることでしょう。

投稿: エンゾー | 2010年7月 5日 (月) 01:30

私、実家が笠松です。競馬場まで歩いて5分程度のことろ。
同級生に騎手や調教師の子どもがいましたし、私の親戚にも調教師をやっていた人がいたり。
実際にオグリキャップの姿を見たことはありませんが、オグリと安勝は、これといって何もない小さな街から生まれた数少ない全国区のヒーローです。(あ、のっぽさんも)
そうした資産をなかなか生かせず、笠松競馬は四苦八苦しています。自身は故郷から離れて暮らしていますが、こうしたニュースを聞くと何かできないものかなあ、と思ってしまいます。
競馬場のある街、馬が優先の道路標識のある街、暗い中を白い息を吐いて練習する馬、大好きです。いつかは撮らねばと思いつつ、今に至っております。

投稿: sugikuma | 2010年7月 5日 (月) 11:36

> すがさん
オグリキャップの最後が、まさか放牧中に骨折とは。
でもヤツの激しい走りは、競馬ファンの脳裏にしっかりと
焼きついているはず。記憶に残る名馬でした。
 
> エンゾーさん
いやいや、オグリキャップのことですから。そんなホノボノ路線は
ないかと。
まずは天国の入り口で武者震い。門番にギン!と睨みを効かせ。
タマモクロスを発見した瞬間、決着をつけてやるといわんばかりに
勝負を挑みかかっていくんでないですかね。
むしろそんなオグリキャップでいてほしい・・・・。
 
> sugikumaさん
笠松競馬場のご近所がご実家でしたか。オグリと安勝を
身近に感じることでしょうねえ。
暗い中を白い息を吐いて調教を受ける馬。絵を想像しただけで
たまりませんなー!
斜光線の朝日と、影が織り成す背景に、遠い視線の競走馬が
白い息を吐き。くー。たまりません。

投稿: ビヨ | 2010年7月 5日 (月) 19:26

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