再録 キヤノンF-1
以下、再録。
24歳の時、会社の先輩が「カネがないので買っておくれ」と私の職場へ送りつけてきたのが、旧F-1のODボディ。サファリなんて呼ぶ人もいるオリーブドラブ色の仕様だ。
あまりに突然のことで、さてどうしたものかと迷う気持ちはあったけれど、思えば私が中学の時に一眼レフを意識するきっかけが、同級生のボンボンが持っていた旧F-1であったではないか。
送られてきたボディはひどく汚れていたけれど、よくよく見ると塗料かなにかが乗っているようだ。
匂いをかぐと覚えのある匂い。これはひょっとしてパクトラタミヤでは?だとするなら、下地のカメラ塗装を痛めずにきれいにすることは簡単である。
ボディに方眼マットスクリーンとスピードファインダーがついて現金1万円ぽっきりというのは破格であったから、すぐに買い求めることにした。
このボディ、あるプロカメラマンの予備機として長年使われていたので、外見がボロいわりに中身はそれほど傷んではいないらしい。パクトラタミヤはどうやら先輩がイタズラした模様であった。
旧F-1というと、直線的なボディデザインであり、さぞや手にゴツゴツしやがるんだろうなー、と思いきや、やたら手にフィットする。グリップの出っ張ったAF一眼レフなどよりもずっと保持しやすい場面もある。人間工学的にデザインが優れている証拠だ。
暗めのファインダーながらピントは抜群に合わせやすい。シャッター音はソフトな音質である。音量そのものは小さくないが、耳障りな音がしない。
レリーズボタンのタッチはたまらん。機械式シャッターの美学ともいうべき絶妙なタッチで、まるで指先にカメラ内部の動作が伝わってくるかのようだ。シャッターの落ちるポイントがよくわかる。
やはり機械式カメラのフラッグシップ機というのは一味違う。品質感と所有感に満足できてしまう。
だけど旧F-1はステイタスのわりに外見がいささかシンプルすぎて、ちょいと寂しいものがある。システム化されていたカメラなので、アクセサリーを追加してやったらにぎやかになっていいかなーと私は思った。
当時の私の愛機はT90であった。T90そのものにはほとんど不満がなかった。だがニッコールのシャープさに憧れていた時期だったので、AF一眼レフに切り替える時にニコンF4でも買おうと思って貯金していたのである。だからカメラのアクセサリーくらいどうってことない買い物だった。
そんなに期待しないで、当時地元だった中野のフジヤカメラへ行った。古い機種だから都合良くアクセサリーなんか転がってるはずはなかろうと思っていたのである。
そしたらショーウインドウの中から、なにやら私を呼ぶ声がするではないか。はて、私を呼ぶのは誰なのか。なんとサーボEEファインダーであった。しかも極上品。バッテリーケースもきちんと付属している。私はサーボEEファインダーを購入してしまった。
旧F-1をシャッター速度優先AEで使用できるファインダーだが、現代のカメラを基準にしては大変。AEコントロールをサーボモーターで駆動しているのである。針が上から下まで動くのに2秒くらいかかるんでないだろうか。そんな感じである。
だけど外見はすごいことになった。ものすごく大きな四角いファインダーが旧F-1号の上に鎮座している。ミノルタX-1のファインダーですらこの姿には勝てまい。謎のカメラという雰囲気がプンプンと漂い大変によろしい具合である。
だが頭でっかちで少々みっともない。しかもバッテリーケースへ伸びているスパイラルコードがかなりうざったい。これはなんとかしたいなぁと思っていたところ、なんとモータードライブから電源を取れるというではないか。
早速またフジヤカメラへ赴くものの、さすがにモータードライブは程度のいいものは少ない。しかもプレミアがついて高価である。簡単に見つけられるはずがない。
ところが私が赴いた日に限って、モードラMDとモードラMFが2台ずつ展示されていたりするのであった。そうか。私に買えというのだな。納得してモードラMFを買い求めたのである。
ファィンダーとモードラは黒。ボディはOD。遠目にはミノルタX-1モーターのような押し出しの強いフォルムになったものの、さすがのX-1モーターも負ける大きさである。いいではないか。
その頃、私は航空機の撮影に凝っていたため、米軍基地や自衛隊基地のオープンデイにはよく通っていた。するとカメラ小僧が一定距離を置いて私を尾行してくる。
「キヤノンって入ってるけど、なんだあれ?」「あれはニコンのフォトミックだろう」「えー。でもキヤノンだったよ」なんていう具合に謎を撒き散らすフォルムであった。挙句に社外のサンニッパを使っていたから、なにがなんだかさっぱりわからなかったことであろう。わはは。
ところが気がつくとF4貯金はいつの間にやらF-1のアクセサリーに化けてしまい、もはや一銭も残ってはいなかった。こうして私はニコンへ乗り換えるチャンスを失ってしまったのであった。罪深いカメラじゃのう。
サーボEEファインダーのトロさはスナップ撮影などに使えるはずもなかったが、その鷹揚な露出制御の反応は飛行中の航空機を撮影するのにピッタリであった。
ブルーインパルスの曲技飛行をサンニッパで追いかけたりすると、露出がめまぐるしく変わって大変なのだが、露出計はノロノロと動作するのでほぼ平均値をいつもキープしていることになる。
そしてレンズもボディもかなり重いのだけど、どちらも重いので全体のバランスがよく、向けたい方向にレンズを向けられる。これはありがたいことであった。
モータードライブの音質はキヤノンとしては異質なジェントルなもので、実際の巻き上げ速度はそんなに速くはないはずなのに、ソフトドライビングと形容される柔らかな音は的確に撮影のリズムを刻んでくれる。
泣き所はシャッター。チャージしたまま放置しておくと、シャッター幕がジャンプして画面横に露出の違う場所ができてしまう。
チャージングしなくても飛ぶことは飛ぶのだが、症状は緩和されるようだ。したがって使用前日はリハーサル代わりに空シャッターをバンバン切ってやるのだった。
将来、いつ航空機撮影できる場面に出会えるかわからないので、本日も我が家には旧F-1号がきちんと鎮座しておられる。(2004,02,21)
以上、再録。
床の間の置物にしてもいいくらいの存在感が今でもありますヨ。ゴツゴツして重いカメラのはずなのに、使っているとそれがまったく気にならないのですね。打倒ニコンFを目標に開発されただけあるカメラだと思います。
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